2006年08月17日

リベルト・プラナスさんの工房/交流会

 昨年5月茨城県八郷でのギター製作コンテストで審査員として来日されたリベルト・プラナスさんはモンマルトルにお住まいだった。自身ギター製作家でまた著名な奏者でもある。スペインの民族色満点の演奏はプラナスさんだけのものと思う。工房には何人かの若い人が弦楽器製作を習っていて、作りかけの作品が吊ってあった。ギター、バイオリン、リュート、チャランゴ・・・。我々のお目当ては修理中の初期のロベール・ブーシェ。それは極めてめずらしい3枚はぎのチェリー(自分には樺に見えたが)のモデルだった。ブーシェさんも最初は苦労したんだろう。

 工房見学の後はお待ちかねの交流会。プラナスさんご夫妻の他3名の若い生徒さんたちも参加した。こちらはグロンドーナさんと日本人6名、さらに別途パリに来られているギタリストの北口功さんもいっしょだ。
 シャンパンで乾杯したあとは奥様が昨日から準備された手作り料理をいただく。いずれもワインにピッタリのメニューが並ぶ。その中にどーんと鱒鮨が鎮座。紹介が遅れたがプラナスさんの奥様は日本人でトモコさんとおっしゃる(写真)。

 さて、生徒さんたちと私たちは楽器作りの話題で当然盛り上がった。共通言語は英語しかないのだがこの英語もお互いに相当怪しい。どちらも必死で説明するのだがなかなか通じない。そのやりとりを見ていると涙が出るほどおかしい。でも解かりあえたときは「やったァ」。何事にも真剣な福田君のパフォーマンスが秀逸だった。

 11時も過ぎて宴もたけなわというころ、松村さんが「丸山さん、ギターを持っておいでよ」と云った。それは極めて絶妙なタイミングだった。この一言で朝からゴルフコースを2ラウンドするほどケースをぶらさげて歩いてよかったと思うことが起きる。ひょっとするとブーシェさんの思し召しだったかもしれない。

 いそいそとギターを持ってきてケースから取り出す。するとここはギター関係者の集まり、場の空気がさっと変わった。まずプラナスさんが手にとってあらゆる方向からチェックを入れてくれた(写真)。そして一曲弾いてくださった。まず感動。
 そして北口功先生やあのステファノ・グロンドーナさんまで曲を通して弾いて下さったのだ。これは間違いなく大スクープ、すごいことが今起こっている!あわててビデオカメラを回した。よくぞカメラをバッグに入れてきたことよ。

 私のギターを皮切りに、福田君のギター、松本君のギターと続く。
ひとりのギタリストが複数のギターを弾くCDやコンサートはよくあるが、複数の人が複数のギターを弾く珍しいライブコンサートが行われた。3人の駆け出しのギター作家にとっては最高のひととき。日本からギターを連れてきてよかった。そしてこの場を見事に演出してくださった松村さんに感謝します。

 「私のギター、いかがでしたか?」なんてこちらからプロギタリストに聞くのはあまり感心しない事とされる。製作者本人が感じ取らなければならないことだ。
でも帰り道で北口先生が、「丸山さんのギターは、弾きこなしてやろうと思わせるね」みたいなことを言ってくれた。

 宿までは深夜のモンマルトルをみんなでウォーキングした。これが一番安全なのだと思いながら。

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修理中のブーシェギター 、 北口先生・トモコさん・私 、ギターをチェックするプラナスさん 、私のギターを弾くグロンドーナさんと北口さん

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国主催「ロベール・ブーシェ研究会」

 極めて内容の濃い初日だった。さてきょうは今回の主目的でもある表題の研究会。
会場はパリ市の北東部にある国立音楽博物館。このあたりはあの国立コンセールバトワール(フランス国立音楽院)も隣接する一帯で、楽器を持った学生も多く見かける。
また広大な公園地帯になっていて、まだ葉も花もつけていないがどこまでも続く並木もそれはそれで美しく本当に気持ちがいい所だ。

 思えば関空から昨夜までかなりハードだったが、今日は会場の中で一休みと内心ほくそえみながら臨んだ。
この音楽博物館は近代を通り越して前衛風というか無調音楽のようなデザイン、でも中はなかなかおしゃれな内装や調度品でフランスらしさを感じさせる。
 さて本日のプログラム、あたりまえだが演者も討論する人々もすべてフランス語だったので、その内容はかいもく解からなかったがパソコン+プロジェクターによるプレゼン形式なので画像を見ているとなんとなく理解できることもあった。めずらしい写真やBBCで放送されたというブーシェ氏の肉声録音も紹介されたりして驚かされた。

 解からないなりにも気合を入れて聞いたのは、現在フランスのギター製作界で頂点に君臨し世界的にも大人気のダニエル・フレドリッシュ氏の講演。ブーシェとの思い出話が中心だったらしいが、さすがに現役の製作家、微塵も年齢を感じさせない姿と語り口だった。フランス語には句読点がないのか思うほど一節が非常に長く息もよく続くなぁと妙な感心をした。その中でギター表面板に接着する力木のパターンとその作用についての音響解析のプレゼンは非常に興味深かった。大学との共同研究なのでひょっとしたら論文になっているかもしれない。アカデミックにそして出来る限り数値化してギターを作るというフレドリッシュ氏の方法−を垣間見ることが出来た。

 この研究会の目玉はなんといっても最後に行われた4台のブーシェギターによるコンサート。これには国境がないので心ゆくまで堪能できた。ソロ、デュオ、トリオ、カルテットと趣向を凝らして4人のギタリストが次々と登場して各ギターの音色を聴かせる。作者は同じでも材料も違えば製作年代も違うので4台のギターそれぞれ明確に個性を示した。そこで私が感じたのはいずれもパワフルさよりも優しさや繊細さ、さらにはエレガントさ。どの楽器も奏者の表現したいことをストレスなくどこまでも応えていた。
定番のアルベニスやグラナドスも楽しめたが、最後に演奏された地元ガブリエル・フォーレの”パヴァーヌ(ギター四重奏)”がこの場の空気と楽器にピッタリですごく印象に残った。このコンサートのもようは
当局のホームページで紹介される予定だ。

 帰りはみんなでオペラ座前の中華料理店へ。料理はほんのりとフランス風の味付けもあったりして大変おいしかった。紹興酒に甘い干し梅というのもなかなかいけた。

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会場正面 、会場付近の様子 、会場内のピアノ型ショーケース(モデルは中村君) 、 講演風景
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ドビュッシーの家とエコール・ノルマル

 いよいよパリ観光がはじまる。まずはヴェルサイユ宮殿から。
最寄メトロのマルゼルブ駅に行く道中にちょっとしたスポットがある。まずはエコール・ノルマル。そう世界的に有名な私立の音楽学校。クラシックの殿堂と呼ばれることもある。サル・コルトーという名のアール・デコ様式のコンサートホールも併設する。通りから眺めるかぎりやっぱり隣家とツライチに並んでいて注意しないと見過ごすが、その校舎は国の重要文化財に指定されているらしい。サル・コルトーでは昨夜もコンサートが行われていた。

 エコール・ノルマルから一区画隔てた角が「クロード・ドビュッシーの家」。アパルトマンの1階(日本式にいえば2階)がそれである。史跡指定みたいな標識と立派な看板が掲げられてた。その看板には「ペレアスとメリザンドを作曲した」と刻印してあった。パリには他にも多くの大作曲家の家や墓がある。マルゼルブ通りをいく車を除けば、パリ市民はドビュッシーが生活していたころと何も景色は変えていないのだろう。


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左:エコール・ノルマル  右:ドビュッシーの家の前にかかっている看板

posted by nara_craftm at 08:19| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月16日

ヴェルサイユへはこうして行きます

 実は松村さんと同じブーシェ門下のジャンピエールさんの工房がヴェルサイユにあるのでお邪魔するついでに宮殿にも寄って行こうということで、工房のほうがプライオリティが高い。なお松村さんはグロンドーナさんと別の用事を済ませてから、彼といっしょにジャンピエールさん宅で我々と合流する予定。

 ヴェルサイユへはメトロからRER(エール・ウー・エール:郊外高速鉄道)に乗り換えていく。我々はアンヴァリッドという駅でRERに乗り換えることにした。メトロの切符は自販機で買えるが日本とは違って画面と対話していく方式、これが地元の人でも敬遠するほどややこしい。それよりも窓口で「カルネ」と言えば10枚の回数券を10ユーロちょっとで買える。これがお得で便利。RERにも乗れる。
 
 そしてアンヴァリッド駅、地上にあるナポレオンが眠るというアンヴァリッド(廃兵院と訳されるドーム型の建物)にはまた今度ということにして、そのままRERの改札を通ってホームに出た。もうすぐ電車が来るというとき、福田君が重要なことに気がついた。「このカルネ(切符)ではヴェルサイユに行けないみたいです!」「えっ?」

 ガイドブックをチェックするとヴェルサイユはパリ市外でなのでカルネの範囲外、切符を買いなおすことと書いてある。RERには切符の車内販売も駅の清算所もない。なので無賃乗車で多額の罰金となる。パリはこういうことには特に厳しい。外国人旅行者とて容赦はない。あやうく犯罪者になるところだった。
 なんとか切符売り場を探して、窓口のおねえさんに言われるまま「ヴェルサイユ宮殿入場券つき往復切符」を買った。この切符のおかげで、今日一日「ラッキー!」を連発することになる。

 ヴェルサイユへの電車はほとんど観光客だった。それも英語がよく聞こえてきた。その内容はイマイチわからなかったが、なぜかホッとしたような懐かしい気がした。


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左から 私の後ろが庭園 、オーク材組木のフローリング(一辺約1m) 、 大理石の階段手摺りに鉄製の千切り



 ヴェルサイユ駅を降りて宮殿に向かう。その数百メートルのアプローチからきちんと作品になっている。もう少し季節が進めば両脇の街路樹(おそらくセイヨウトチノキ : マロニエ)に花が咲いて見事なんだろう。見上げると8割の青空に真っ白な雲がキラキラしている。

 これでもかという装飾の門をくぐってビデオを回す。パン&ズーム。そして最後に映し出されたものは「長蛇の列」。そうかここは年がら年中行列ができるところなんだ。少なくとも1時間コースかなと思っていると、メンバーも口々に、「これ、並ぶのぉ?」「オレは並ぶぞ」「・・・ここまで来ただけでもいいか....」とか何とか。

 よく見ると入り口がいろいろある。どうも長蛇の列は当日券を買って入る人のようだ。パリじゅうの美術館や名所をフリーで入場できるという「カルト ミュゼ」というパスを持っていると「お先にー」とすっと入れる入り口もある。さて我々のアンヴァリッド駅で買った「入場券付きの乗車券」ならどうか。ダメモトで「これで入れますか?」と聞いてみると、”Of course! ”。ラッキー、待ち時間ゼロで入場できた。

 何度かテレビで見た記憶と照合しながら順路にしたがって進む。どの部屋も当時の職人・芸樹家たちの見事な作品を鑑賞することができた。壁も天井もぎっしりと絵画で埋め尽くされ、大理石の柱や天井の回り縁までもれなく彫刻や装飾が施されている。自分が興味があった家具調度品も同じ様式だった。いくらフランスの王侯貴族とはいえこんな部屋でよく寝泊りが出来るものだと感心する。政治や外交上の理由もあったのだろうか。世俗的なものは何も存在せず全て神聖。断頭台に送られたマリー・アントワネットを想った。
 原野を切り拓いて宮殿が完成するまでのプロセスを順に描いた何枚かの絵が最も印象に残った。

 外に出ると宮殿にもまして前庭のすごさに驚かされる。2470ヘクタールという果てしない広さ(皇居は約140ヘクタール)。端は地平線だ。縦横に巡る運河の総延長も24Kmという。単に広いだけでなくきちんと管理された庭園なのである。多くの噴水や面白い建物も点在する。今はサイクリングができて、ボート遊びもできるという。小さな電車も走っていた。こんど来た時は絶対にサイクリング!!

posted by nara_craftm at 21:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ジャンピエールさんのギター工房

 今日もよく歩く日だ。宮殿を後にしてジャンピエールさん宅に向かう。
途中でサンドイッチ屋さんに入ってお昼。直径40cm、高さ70cmぐらいの肉塊(羊みたい)を回転させてあぶり焼きしたものを、こそげ取ってパンに挟んでくれる。この量がハンパじゃない。パンの幅ほど肉がはみ出ている。さらにポテトフライをあふれんばかりにトレーに盛り上げてくれる。ウマかったが量が多すぎた。

 ジャンピエールさんは松村さんと同じブーシェ門下なのだが、プロ作家にはならずずっと公務員をされている。ちなみに奥様は医者で息子は検事だそうな。
お部屋には日本式の座卓が置かれているほか、書や奈良の水彩画などもあってなかなかの親日家でいらっしゃる。すでにグロンドーナさんも見えていて、さっそくジャンピエール氏所蔵のブーシェギターで「グラナドスのアンダルーサ」を演奏。まろやかな音色で且つきちんとした輪郭もある響きだった。彼の演奏をしばしば生で聴けるだけでもパリに来た値打ちがある。好きな曲なので胸にぐっとくるものがあった。

 そのあと下の工房へ案内される。ここからも感動の連続。
決して広くない工房。作業台の周辺では人が対向できないほど。でもギターを作るには十分な世界なんだと想う。
そして往年のロベール・ブーシェが実際に使っていたという道具や治具類を次々と見せてくれる。それらは市販品ではなくオリジナルだ。どれもこれも理にかなっていて驚かされる。今でも使えるものもある。「これはこうして使うんだよ」と英語で丁寧に説明してくれる。その英語の流暢さもさることながらジャンピエールさんの嬉々とした表情がなんとも印象的だった。氏はもっと説明したかったようだが、パリに戻って次の予定がある旨を告げる。ジャンピエールの姿を見ているとブーシェさんを思い出すよといった松村さんも昔を思い出しておられたようだ。

 最後にジャンピエール最新作の塗装前のギターを拝見した。それは非常に美しく作られていて、軽く叩いてサウンドホールに耳を向けると澄んだ残響が長く続いた。


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左から グロンドーナさん 、 説明するジャンピエールさん 、 力木接着治具 、 刃物はマグネットに固定

posted by nara_craftm at 21:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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